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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)920号 判決

主文

一  甲事件控訴を棄却する。

二  乙事件控訴に基づき、原判決主文第二、三項を次のとおり変更する。

三  第一審被告は第一審原告有住和夫に対して、二五八七万四六七四円、及び内金二三八七万四六七四円に対する平成五年三月一三日から、内金二〇〇万円に対する本判決確定の日から各支払まで年五分の割合による金員を支払え。

四  第一審原告有住和夫のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を第一審原告有住和夫の負担とし、その余を第一審被告の負担とする。

六  この判決は第三項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  申立の趣旨

(甲事件の控訴の趣旨)

原判決の第一審被告敗訴部分を取り消す。

右取消部分に係る被控訴人らの請求を棄却する。

(乙事件の控訴の趣旨)

原判決の第一審原告有住和夫敗訴部分のうち次項の請求の棄却部分を取り消す。

第一審被告は第一審原告有住和夫に対し、五五七万五九四一円、及びこれに対する平成五年三月一三日から支払まで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

原判決二枚目表七行目から同七枚目表一行目まで記載のとおりである。ただし、同三枚目裏一三行目の「一七日」を「一六日」と改める。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

原判決七枚目表四行目から同七枚目裏三行目まで記載のとおりである。

当審における弁論及び証拠調べの結果を考慮しても、右引用に係る認定、判断を変更する理由を見いださない。

二  争点2について

本件関係各証拠(甲一の1~3、二1、2、三、九、一〇の1~3、一一、一二の1、2、一三の1~3、一四の1、2、一七、一八、一九、二一の1~5、二二の1~5)並びに弁論の全趣旨によれば、右一の引用に係る原判決認定の不法行為による損害賠償額は次のとおり認められる。

1  第一審原告有住メリヤス株式会社関係

原判決七枚目裏七行目から同九枚目表四行目まで記載のとおりである。

なお、前本案請求訴訟第一審判決に対する控訴申立てによる貼用印紙代(一七〇万三四〇〇円)について同第二審判決の主文に記載された請求権は訴訟費用償還請求権であるところ、本件におけるこの点に関する請求は不法行為に基づく請求であって、請求権が競合する場合にあたるので、前本案請求訴訟の第二審判決において訴訟費用の負担の裁判があることは右本件請求の妨げとはならない。

2  第一審原告有住和夫関係

(一) 告訴事件における弁護士費用 一〇万円

慰謝料 二〇〇万円

本件訴訟の弁護士報酬 二〇〇万円

右の点の判断は、原判決九枚目表六行目から同八行目までと、原判決一〇枚目裏一行目から同裏九行目まで記載のとおりである。

(二) 解放金借入金利息等

〈1〉 被控訴人和夫主張損害額 二五八七万三五二七円

〈2〉 認定額 二〇九八万六九八六円

(理由)

第一審原告有住和夫は、前仮差押の執行解放金のために、一億一〇〇〇万円の借入れを余儀なくされ平成二年四月一日、信用組合大阪弘容からこれを借入れ、同月九日この借入金と自己資金二七〇万五〇〇〇円をもって右仮差押解放金を供託したものと認められる。

第一審原告有住和夫は、右資金につき、平成四年四月一日より同五年二月一日までの期間中における金利分を損害金として主張している。

原判決は、平成四年六月五日に右供託原因が消滅していると認定(甲二一号証の一)して、同年六月九日以降の金利分は損害として因果関係がないとしている。しかし、右書証によれば、右供託原因消滅とは、仮差押命令が異議控訴審において取消の判決があって確定したことを理由とするものと認められるところ、右仮差押解放金取戻請求権は、前本案訴訟の第一審判決を債務名義として露口稔により差押えられていたことは、前記争いがないから、この差押が取消されなければ、第一審原告有住和夫はその取戻をすることができないのであってこの点において原判決の右判断は不相当である。

原告が、財産上の請求につき第一審判決において認容されて仮執行宣言が付されたので、これを債務名義として被告の財産を差押えたが、第二審判決で右仮執行宣言又は右第一審判決を変更された場合にはその変更の限度で仮執行宣言はその効力を失うことは民訴法一九八条から明らかであり、法解釈論上も異論を見ないところであり、この点は上告がなされても結論を異にしない。それゆえ、被告は右第二審判決の正本を提出して(民事執行法三九条一項一号、四〇条一項)右仮執行宣言に基づく執行を右の限度で停止、取消を得ることができると解され、実務の取扱いも同様であることは当裁判所に顕著な事実である。

これを本件につきみるに、露口稔は前本案請求につき第一審において仮執行宣言付の勝訴判決をえたので、これに基づき前仮差押解放金に対して債権差押え、転付命令を得たが、その控訴審において平成四年六月一七日に第一審原告ら勝訴の判決があったことは前記のとおりである。そうすると、第一審原告有住和夫は右控訴審判決の正本を提出して右執行取消の決定を得て、その確定を待って、右供託金の取戻しをすることができたものというべきであり、これらの手続きは同年七月一七日までには終了できたものと解される。そうすると、同年七月一八日以降の第一審原告有住和夫主張の金利、損害金は因果関係がないものとみるのが相当である。

不動産の所有者はこれを売却し又は担保を入れるなどの自由を有しており、仮差押はその自由を制約することを本来の目的としているから、仮差押債務者が右制約を免れるに必要な解放金を調達するための経費は通常の損害であると解される。

右の判断に基づいて計算すると次のとおりとなる。

1  平成二年四月九日より同四年七月一七日までの期間中の信用組合大阪弘容への支払金利(同二年一〇月一日までは年七・七五パーセント、同月二日以降年九・二五パーセント、年三六五日の計算) 二二三六万九九三二円

供託日(四月九日)より前の同月一日に借入れが必要であったとの立証はない。

2  平成二年四月九日より同四年七月一七日までの期間中の自己資金二七〇万五〇〇〇円についての年五分の割合による損害金 三〇万七五五四円

3  控除すべき供託利息(平成三年四月から同四年六月まで一五カ月分、平成三年三月分までは法により利息は付されない。) 一六九万〇五〇〇円

(三) 前本案訴訟第一審判決による強制執行に対する執行停止のための支払保証委託料

〈1〉 有住和夫主張損害額 七九万八五七三円

〈2〉 認定額 七八万七六八八円

第一審原告有住和夫は、前本案訴訟第一審において平成三年七月五日敗訴の判決を受けたため、これに控訴して右第一審判決による仮執行を停止する旨の執行停止決定を得て、同年七月一六日、その決定に定められた担保七〇〇〇万円につき大和銀行との間で、保証料年〇・六パーセントの約で保証委託契約を締結したことが認められる。

右本案訴訟の控訴審において第一審原告全面勝訴(原判決取消、請求棄却)の判決が平成四年六月一七日に言渡され、第一審被告の上告を棄却する判決が同五年四月六日に言渡されたことは前示のとおりである。

右の保証委託料は第一審被告の不当仮差押、訴訟により第一審原告有住和夫の受けた損害と解される。

原判決は甲二一号証の四により右第一審判決による強制執行が平成五年一月二〇日に取消されていると認定して同月二四日以降の支払委託料は因果関係がないとしている。しかしながら、右書証によれば、取消されたのは右第一審判決にもとづく仮差押執行解放のための供託金取戻請求権に対する債権執行であって、この取消があっても執行停止のための担保の取消決定を得て、保証料の支払を免れることができるものではないから、原判決の右の点の判断は誤っている。右担保の取消を得られるのは上告棄却判決によって右控訴判決が確定した時点であって、右担保取消を得て保証委託契約を解約して保証料の支払を免れるための手続的に必要な期間は同年五月末日までと認められ、これ以降の期間の保証料支払の損害は因果関係がないと解される。

そうすると、平成三年七月一六日から同五年五月三一日までの期間につき、担保額七〇〇〇万円に対する年〇・六パーセントの割合の前示損害を第一審被告は賠償する義務がある。

(四) 第一審原告有住和夫関係認定額合計 二五八七万四六七四円

(五) それゆえ、第一審被告は第一審原告有住和夫に対して、二五八七万四六七四円及び内金二三八七万四六七四円に対する本件訴状送達の翌日である平成五年三月一三日から、内金二〇〇万円に対する本判決確定の日から各支払済みに至るまで年五分の割合による損害金を支払うべきこととなる。

乙事件の控訴は右の限度で理由がある。

第四  結論

以上の理由により、第一審被告の本件控訴(甲事件)は理由がないが、第一審原告有住和夫の本件控訴(乙事件)は右の限度で理由があるので、原判決を右の趣旨にそって変更する。

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